日めくり栄養学

東大博士学生による結構まじめな栄養学

メチオニン制限食の効能

メチオニン代謝経路はOne carbon経路と呼ばれ、葉酸代謝と共同して細胞増殖や核酸合成に関与する重要な反応経路であることが知られている。そのためアンチエイジングやがんの治療として本経路の関与が示唆され、メチオニン制限食の可能性が提唱されていた。

Nature掲載のDietary methionine influences therapy in mouse cancer models and alters human metabolismによると、メチオニン制限食によって移植された腫瘍の増殖を抑えることができること、さらに同じ代謝経路にかかわる核酸阻害剤を併用することでより効果を高められることを示した。

もちろん完治ではないが、特に認可も必要なくすぐに始められる治療である。メチオニンを多く含む食品としては、果物、肉、野菜、ナッツ、マメ科の植物があげられる。意識的に抑えようとするのは他の栄養素摂取に影響がでるので難しいのではないか。

マイオカイン最初の発見

運動が生体機能の向上に寄与することはほとんど自明であるものの、根底にある分子メカニズムについては未だ未知のことが多い。マイオカインは筋肉から分泌される生理活性をもつ物質の総称である。

 

最も早く発見され、その機能が最も調べられているのがIL-6である。IL-6は細胞外に分泌されて他の細胞に作用することでグルコースの取り込みや脂肪酸酸化を促進する機能を果たす。Paracrine(近接)作用に留まらず、Endocrine(内分泌)作用を持ち、肝臓においては脂肪分解や糖新生を誘導する。はたまた腸内細菌に作用したり、膵臓に作用してインスリンの分泌を調整する機能も報告されている。

IL-6の他にもIL-8やIL-15もマイオカインの1種とされている。

妊娠中の運動による効用(Exercise during pregnancy protects offspring from obesity)

男性だからなのか、妊娠中の運動なんて言語道断であると思っていたが、軽くググってみただけでもしたほうが良いという意見は多くて驚いた。今日の論文は栄養とは関係ないが、妊娠中の運動が生まれてくる子供にとって大きなメリットがあるということを示した論文である。

ワシントン州立大学の研究チームは妊娠中の運動によって子供の代謝状態が健康的に良い状態になると述べている。妊娠中に毎朝60分の運動をしていた母マウスから生まれた子マウスを調べたところ褐色脂肪組織に関連するタンパク質レベルが上昇していることを確認した。この組織は脂肪や糖質を熱に変換する機能を有しており、発熱機能を高めることが知られており実際にこれらのマウスの体温がコントロール群と比較して高いことを確認した。この機能を持つ個体は肥満や代謝による病気のリスクが低いことが知られている。運動を行った母から生まれた子マウスは授乳後に高カロリー食を与え続けたところコントロール群よりも体重上昇が見られなかった。

 

母親の生活習慣が子供の人生に関与するレベルで効いてくる、胎児の健康状態などは極めて重要であることを再認識した。妊娠してるんだからゆっくり休んで、なんて優しさはもしかしたら母にとっても子にとっても大きなお世話なのかもしれない。

 

参考文献

Experimental Biology

部屋を綺麗にして心も綺麗に、見た目も綺麗に(The Endocrine Society)

我々が全く気にしていないときににも無意識に身体にとって害な行動をとっているときがある。Duke Universityの研究チームが報告したのは、HouseDust(所謂部屋のほこり)に含まれる化合物が脂肪細胞の増殖を促進するというものだ。

先行研究では特定の化学物質が脂肪の1種であるトリグリセリドの蓄積を誘導することが知られていた。これらの研究で結論付けているのは内分泌系(所謂ホルモン系)に影響を及ぼす化学物質によって肥満と体重増加が促進されるというものである。

研究では、HouseDust由来の化学物質が細胞レベルで脂肪の増加を引き起こすのかどうかを調べている。研究チームはHouseDust由来の化合物が超微量濃度であっても脂肪細胞の増殖と合成量増加を確認した。子供はこの量の1000倍ものの濃度でこれらの化合物を取り入れているという。研究チームは化学物質の中には70種類の化合物を特定し、洗剤や植物、化粧品由来の化合物が確認されたという。

我々は現在様々な化学物質で包まれて生活をしている。それらの大部分の化合物は当然我々の体内で毒として反応するし、正常な消化ができるように我々の身体はできていない。掃除や部屋の換気、自分のためでもあるし、子供のためにも今日からできるファーストアクションなのではないだろうか。

 

参考文献

The Endocrine Society

マーケティング目的の記載に注意(Detection of Gluten in Gluten-Free Labeled Restaurant Food)

ジョコビッチによって爆発的に広まったグルテンフリーは多くのレストランや食品の謳い文句になりつつある。人の中にはグルテンを消化することに対して過剰に反応したり消化できない人がいる、こういう人がグルテンをとると小腸粘膜機能がおかしくなる、実際には上皮細胞間から不要な成分が取り込まれたりする、これによる炎症によってさまざまな不調に繋がると言われている。

実際にはグルテンを普通に消化できる人が多いのでそんなに気にしないで問題ないが個人的には確認の意味で3週間くらい試してみるといいと思う。

今回紹介する論文によると、グルテンフリーを謳う食品の30%以上が実際にはグルテンを含んでいたとのころだ。ピザやパスタといった食品には50%以上の確率でグルテンが含まれているようだ。検出に用いた機器は5-10ppmのレベルでグルテンを検出するのでごく微量である可能性があるが、アレルギーと同様、少量で過剰に反応する人もいる。研究チームは用いた機器では特定の構造をもったグルテンしか検出できないので、実際にはより多くのグルテンが含まれていると考えられると述べている。

 

マーケティング文句に安易に使われるケースが多い世の中で、食品業界も厳しい検査を経て記載すること、そして消費者も正しく判断することが大切である。

 

参考文献

Benjamin A. Lerner, Lynn T. Phan Vo, Shireen Yates, Andrew G. Rundle, Peter H.R. Green, Benjamin Lebwohl. Detection of Gluten in Gluten-Free Labeled Restaurant FoodThe American Journal of Gastroenterology, 2019

 

ALSの原因解明に向けて最新技術が示唆するもの(Spatiotemporal dynamics of molecular pathology in amyotrophic lateral sclerosis)

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は脳、末梢神経からの指令を筋肉に伝える運動ニューロンが侵され筋肉を動かすことが困難になり、重症の場合は麻痺、死亡に至る場合もある難病である。知覚や自律神経が直接的に影響を受けることはないが、呼吸には運動ニューロンを介するため、重症の場合は呼吸困難になる。

多くの研究が原因遺伝子の特定などに勤しむが、ALSの根本原因は未だ分かっていない。本研究ではバーコードRNAシークエンスを応用した手法を用いてALSの時空間的な遺伝子発現の変動を調べている。特定のたんぱく質の設計図ともいえるメッセンジャーRNA(mRN)を調べることで遺伝子が活性化しているか、発現しているかを見ることができます。mRNAに対して固有の分子バーコードを付加することで解析結果として従来より高感度なmRNA情報が得られます(詳細は省く)。研究チームは非常に薄い組織を非常に小さな区画が設けられたスライドを用いることで高解像度を持ち時間、空間的なmRNA情報の獲得を達成しました。

オープンアクセスではないので詳細な結果まで読み込めていないが、時間変化によって遺伝子発現量が変動する様子を確認し、ALS発症前においてミクログリアと呼ばれる脊椎細胞がニューロンの機能障害において重要な役割を担っていること、ミクログリアにおける2つの遺伝子において高い発現量が確認されたことを示している。実験系はイメージできるし、なんとなく時間的、空間的な細胞状態の変化が分かれば、病気の原因も理解できそうだが、実際に得られた膨大なデータを分析し、そこに関係を見出すことはやはり非常に難しそうだ。この研究チームも分析における専門家集団との協力で更なる研究を進めていく必要があると述べている。

 

参考文献

Silas Maniatis, Tarmo Äijö, Sanja Vickovic, Catherine Braine, Kristy Kang, Annelie Mollbrink, Delphine Fagegaltier, Žaneta Andrusivová, Sami Saarenpää, Gonzalo Saiz-Castro, Miguel Cuevas, Aaron Watters, Joakim Lundeberg, Richard Bonneau, Hemali Phatnani. Spatiotemporal dynamics of molecular pathology in amyotrophic lateral sclerosisScience, 2019; 364 (6435): 89

見たい景色がある、なら野菜を食べよう(Dietary vitamin and carotenoid intake and risk of age-related cataract)

コンタクトやメガネが開発されなかったら毎日ゆがんだ世界を生きることになって幸福度が大きく下がっていたに違いない。僕は裸眼の視力が著しく悪い、テクノロジーには期待しているが、生きるうえで目が見える状態だけはキープしていきたい。目には、レンズの役割を果たす水晶体、見たものを映す網膜があり、このレンズの厚みを変えることでピントを合わせています。しかし水晶体自身が動くことは出来ないので毛様体筋とよばれる周辺筋肉によって水晶体の厚さを調整していると言われています。この調節機能が低下することでピントが合わず見えない現象が作られます。この視力低下とは別で、目に関する病気で知れているものに白内障がある。

白内障は、目の中のレンズの役割をしている水晶体が白く濁ってくる病気です。主な原因は加齢で、水晶体の成分であるたんぱく質活性酸素によって変化して、白く濁ります。薬などでの治療法は現状なく、白内障手術を受けることになります。この病気にかかる人が世界で4500万人、医療費には570億円が相当する大規模病気になります。

今回の論文では所謂抗酸化物質が白内障予防に関係するのかどうかを過去のコホート研究を基にメタ解析したものである。研究チームは結論として、相反する結果が多少あるものの、抗酸化物質に富む食品の摂取は大きく白内障予防に貢献する可能性がある(約30%の人々が改善した)と述べている。化合物別にみると、ルテイン(28%)、VitaminC (18%)  βカロテン(8%) VitaminA(6%)として報告している。

自然の食材摂取の利点は上記のような化合物を包括的に摂取できることである。サプリメントに頼るのではなく、食品からの摂取を心掛ける。そこには未だ調べられれていない機能をもった化合物の存在や、化合物同士の相互作用が我々の想像を超えた影響を与えてくれるかもしれない。こういった効果について怪奇的になってしまう気持ちもわかるが、僕は野菜が持つパワーは極めて大きいと思っている。無理はしなくていい、ただ積極的にとってみよう。

 

参考文献

Hong Jiang, Yue Yin, Chang-Rui Wu, Yan Liu, Fang Guo, Ming Li, Le Ma. Dietary vitamin and carotenoid intake and risk of age-related cataract. The American Journal of Clinical Nutrition, 2019; 109 (1): 4