日めくり栄養学

東大博士学生による結構まじめな栄養学

ALSの原因解明に向けて最新技術が示唆するもの(Spatiotemporal dynamics of molecular pathology in amyotrophic lateral sclerosis)

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は脳、末梢神経からの指令を筋肉に伝える運動ニューロンが侵され筋肉を動かすことが困難になり、重症の場合は麻痺、死亡に至る場合もある難病である。知覚や自律神経が直接的に影響を受けることはないが、呼吸には運動ニューロンを介するため、重症の場合は呼吸困難になる。

多くの研究が原因遺伝子の特定などに勤しむが、ALSの根本原因は未だ分かっていない。本研究ではバーコードRNAシークエンスを応用した手法を用いてALSの時空間的な遺伝子発現の変動を調べている。特定のたんぱく質の設計図ともいえるメッセンジャーRNA(mRN)を調べることで遺伝子が活性化しているか、発現しているかを見ることができます。mRNAに対して固有の分子バーコードを付加することで解析結果として従来より高感度なmRNA情報が得られます(詳細は省く)。研究チームは非常に薄い組織を非常に小さな区画が設けられたスライドを用いることで高解像度を持ち時間、空間的なmRNA情報の獲得を達成しました。

オープンアクセスではないので詳細な結果まで読み込めていないが、時間変化によって遺伝子発現量が変動する様子を確認し、ALS発症前においてミクログリアと呼ばれる脊椎細胞がニューロンの機能障害において重要な役割を担っていること、ミクログリアにおける2つの遺伝子において高い発現量が確認されたことを示している。実験系はイメージできるし、なんとなく時間的、空間的な細胞状態の変化が分かれば、病気の原因も理解できそうだが、実際に得られた膨大なデータを分析し、そこに関係を見出すことはやはり非常に難しそうだ。この研究チームも分析における専門家集団との協力で更なる研究を進めていく必要があると述べている。

 

参考文献

Silas Maniatis, Tarmo Äijö, Sanja Vickovic, Catherine Braine, Kristy Kang, Annelie Mollbrink, Delphine Fagegaltier, Žaneta Andrusivová, Sami Saarenpää, Gonzalo Saiz-Castro, Miguel Cuevas, Aaron Watters, Joakim Lundeberg, Richard Bonneau, Hemali Phatnani. Spatiotemporal dynamics of molecular pathology in amyotrophic lateral sclerosisScience, 2019; 364 (6435): 89