日めくり栄養学

東大博士学生による結構まじめな栄養学

Vitamin Dの取りすぎの危険性(Three doses of vitamin D and cognitive outcomes in older women: a double-blind randomized controlled trial.)

アメリカでは4人に1人が認知症であることが報告されておりこれにかかる医療費はおおよそ31億円以上と言われている。そんな脳機能との関係性が謳われている栄養素がビタミンDである。一般的には骨の形成に必要な栄養素として知られており、太陽光(に含まれる紫外線)を浴びることで生体内での合成が誘導される。

 

今回の論文はビタミンDの摂取によって記憶や反射神経といった機能にどう影響を及ぼすのかを調べた研究である。50-70歳の集団を3グループを設け、服用量を600IU、2000IU、4000IUとして研究を行った。結果としては2000IU量を毎日服用したグループでは記憶力や習熟力は向上した。しかしながら反射神経(ReactionTime)については服用量が多いほど低下していることが確認された。結果から言えることは過剰な摂取が良くない影響を及ぼす可能性があるかもしれないということで、もちろん今回の結果についても更なる検証が求められる。

 

参考文献

Journals of Gerontology: Series A, 2019 DOI: 10.1093/gerona/glz041

 

 

サプリメントの摂取で精神的落ち込みは予防できない

論文ではないが、ヨーロッパのMooDFOOD projectと呼ばれる研究活動で、栄養サプリの摂取が精神病の改善につながるかどうかを調べている。各ビタミンやミネラルを含むサプリメントを精神的落ち込みを発症するリスクのある肥満体質の被験者を対象に大規模な実験を行った。一方の群は栄養サプリを毎日摂取し、一方はサプリに見立てた偽薬(プラセボ群)、さらにもう一方のグループとして食生活を改善するように指導する群を作って比較している。約5年間の追跡実験によってプロジェクトチームはサプリの施主も食生活の改善も精神的落ち込みを予防することには繋がらないと結論つけている。

 

一般的に精神病と食生活の関係は直接的ではないにしろ関係があることが予測できる。しかしながら実際にこれらの関係性を調べようとするとあらゆる情報の混在や矛盾が発生し何かしらの結論を導くことは極めて難しくなる。本チームは追跡実験によって関係性を明らかにすることは出来なかったものの下記のような示唆を記している。「健康的な食事パターンが精神的落ち込みを予防する可能性はある。しかしながらこれは肥満の人によって体重が落ちることが要因であると考えられる」

 

栄養状態と生活習慣が精神病と関係していることはおそらく間違いないがそれには複合的な要素が多く含まれている。運動と健康的な食事が大切なのは言うまでもないが、分子機構などを明らかにすることで説得力のある説明をすることも大切である。

 

Material is provided by European Association for the Study of Obesity.

 

 

Acute sleep loss results in tissue-specific alterations in genome-wide DNA methylation state and metabolic fuel utilization in humans.(睡眠不足が引き起こす組織特異的なメチル化及び代謝状態の変化)

疫学研究では肥満や2型糖尿病のような現代病は慢性的に睡眠不足な人々に多く見られるということが報告されている。睡眠不足自体やこれによる概日リズムの乱れが骨格筋量の低下および脂肪細胞の増加などに影響しているだろうと言われている。大切なのはこういった疫学研究の結果を受けてそのブラックボックスを如何に分子レベルで解明していくだと思う。

 

スウェーデンのUppsala University の研究チームは1日の睡眠不足が及ぼす組織特異的な悪影響を調べた研究である。15人の健常者からランダムに睡眠時間を削り、翌朝バイオプシーと呼ばれる方法でが骨格筋と脂肪細胞の組織片を採取してDNAメチル化解析を行っている。DNAメチル化は遺伝子発現調節において極めて重要な機能を有している。睡眠不足によって概日リズムに関わる遺伝子発現量がエピジェネティックに制御されていることを示した。またこれらのDNAメチル化変動は脂肪細胞において特異的にみられることを確認し、それらの変動がさらに肥満や2型糖尿病を引き起こす代謝状態へと誘導していることを確認した。同時に骨格筋形成のタンパク質の分解も確認している。

食事や運動はDNAメチル化状態を変える要因であると考えられているが、やはりそれらと並んで、もしくはそれ以上に睡眠が与えるエピジェネティックな変化は我々の健康に大きな影響を与えているかもしれない。

 

やはり睡眠はしっかりとろう。

 

“Hyperglycemia induces skeletal muscle atrophy via a WWP1/KLF15 axis(糖尿病が引き起こす筋肉量低下のメカニズム)

恐らく博士課程では骨格筋の機能を栄養的観点よりひも解くことになりそうなので、筋肉の機能や背景などを知る為にも、この分野についての研究はこまめにチェックしていきたい。

 

筋肉の減少による活動能力の低下はサルコペニアと呼ばれ健康障害の1つとして知られている。ロコモティブシンドロームという言葉も生まれ、運動機能の障害は本国において大きな問題である。今回の論文は神戸大学医学研究科による研究成果で糖尿病が筋肉量を低下させるメカニズムを世界で初めて明らかにしたという論文である。日本語版のレビューもたくさん出ているので簡潔に紹介したい。糖尿病患者は高齢になると筋肉が減少しやすいということは知られてはいたもののその分子メカニズムは未知であった。糖尿病自体はインスリンと呼ばれるホルモンが正常に分泌されないことで引き起こされる。インスリンの作用が欠乏すると慢性的な高血糖状態となり種々の代謝異常を伴うことで疾患が引き起こされる。もともとインスリンには細胞の増殖や成長を促す作用があるため、これが筋肉の減少に繋がるのではと言われていた。しかしながら本研究ではインスリンによる直接的制御ではなく、血糖値の上昇そのものが筋肉の減少を引き起こすことを確認した。

 

糖尿病の患者ではWWP1(ユビキチンリガーゼ)というタンパクが減少し、これによってKLF15の分解が抑制される。通常より多く賛成されたKLF15が筋肉現象の原因であると述べ、これはノックアウトマウスを用いても確認されている。

 

筋肉増強剤などは既にあるが、実際に筋肉現象に対する治療薬はないのが現状だ。こういった研究によって筋肉現象を抑える薬、更には栄養成分の探索が広がることは間違いない。

Sleep modulates haematopoiesis and protects against atherosclerosis (睡眠は造血機能を調節し、動脈硬化を防ぐ)

NatureやCellといった一流誌に掲載される学術論文は膨大な実験データ量と意義深さをきちんと読みとくべきであることは重々承知だが、まだラボに所属していないためこれらの論文はレビューサイトやアブストのみでの紹介になることをご理解いただきたい。

 

睡眠が我々の健康に及ぼす影響は非常に大きなものであり、生活習慣病や記憶能力など様々な面でそれが示されてきている。しかしながら現象論だけでなく、そのメカニズムまできちんと紐解いている研究はまだ少ないのではないかと思われる。マサチューセッツ総合病院が発表したのは睡眠が、心筋梗塞症のリスクを低下させる機能を発見した論文である。睡眠不足が心筋梗塞のリスクを高めることは知られていたが、その細胞レベル・分子レベルでのメカニズムはほとんど知られていなかったようだ。

 

研究チームが発見したメカニズムは以下のようである。睡眠によって骨髄由来の炎症性細胞(ここでは単球や好中球)の生産が制御され、血管の状態が正常に保たれる。逆に睡眠不足によって炎症性細胞の制御が出来なくなり、結果様々な炎症作用が起こり心筋梗塞などの症状に繋がる。研究では粥状動脈硬化を対象としている。通常のマウスと睡眠不足のマウスを比べると体重・コレステロール値・耐糖能に変化がないが、動脈プラークと呼ばれる動脈壁の中の脂肪性沈着物の増大、また、粥状動脈硬化に寄与する単球と好中球の増加を確認した。様々な実験の元、彼らは脳で作られるヒポクレチンと呼ばれるホルモンが、骨髄で好中球の前駆細胞に作用することを見つけた。この好中球がCSF‐1と呼ばれる因子を放出することで単球の生産を誘導しこれが脂肪性沈着物の増大につながるという機構は初めて知られるようだ。個人的には最後のこれらの炎症性細胞とプラークの増大の繋がりが理解出来ていないのだが、おそらく知識不足であろう。

 

睡眠は脳機能に影響を及ぼすことは知られているが、実際に脳で作られたホルモンが全身をめぐり様々な症状を引き起こすことを学ぶと健康な生活のために睡眠だけは十分確保しようと思わされる。

 

参考文献

Sleep modulates haematopoiesis and protects against atherosclerosis. Nature, 2019

 

夕方の激しい運動は睡眠の質低下には繋がらない、かつ空腹感を減らしてくれる(The Physiological Society)

夕方や夜の激しい運動は覚醒状態や体温上昇を引き起こし結果として睡眠の質を低下させるのであまりよろしくないとの助言を耳にしたことのある人は多いだろう。しかしながら近年はこの真相を確認する研究が行われ、ほとんどの研究結果として「夕方の激しい運動、夜の運動は睡眠には影響を及ぼさない」との結論を出している。一万人以上の文献データのメタ解析したレビュー(Effects of Evening Exercise on Sleep in Healthy Participants: A Systematic Review and Meta-Analysis)によると就寝前1時間以内の激しい運動は、総睡眠時間に影響を及ぼす可能性があるが、それ以前の時間帯における運動は睡眠の質に影響を及ぼさないどころかむしろ睡眠の質を高めているかもしれないと述べている(Sleep efficiencyを指標として、運動によりその値が低下していることを確認)。

 

オーストラリアのCharies Sturt大学は11人の中年男性を被験者として朝昼晩と高強度(この時はパワーマックスのような運動)を30分程度行い、その前後血液採取をして食欲に関わるホルモンなどを測定している。そして各パターンで睡眠の質を評価する測定を行っている。

 

結果は上述の通りで、睡眠の質には運動の影響は全く見られなかった。更に空腹を引き起こす原因ホルモンであるグレリン量の低下を確認している。研究目的とは直接関係はないが、面白いことにこの実験の際に測定したパワー出力値を見ると、朝の運動時より昼夜の運動時の方が高い傾向が見られている。こういった研究を見ると、練習計画を立てる際には、何をするかと同時に、いつ行うかということも考慮すべきポイントであると考えさせられる。

 

グレリン:胃から産生されるペプチドホルモン。下垂体に働き成長ホルモン (GH) 分泌を促進し、また視床下部に働いて食欲を増進させる働きを持つ。

 

参照文献

http://www.physoc.org/press-release/2019/evening-exercise-will-not-ruin-sleep-and-might-even-reduce-appetite

2/28 Antioxidant Balance and Regulation in Tomato Genotypes of Different Color(トマトにおける抗酸化物質の研究)

ポリフェノールなど自然由来の化合部が持つ抗酸化機能が着目されてすでに月日がたった。しかしながらフェノール基を2個以上持てばポリフェノールであり、その構造や化合物の種類は多岐にわたる。例えばアントシアニンであればアントシアニジンと呼ばれる基盤構造があり、それらに結合する官能基や糖によって名称や機能が変わる。

 

同じ作物であっても赤いものと紫っぽいものオレンジのものなど色のバリエーションが多岐にわたる作物があり、今回の論文ではトマトを対象としている。トマトが抗酸化作用を持つ化合物の摂取元であることは知られているが、その化合物詳細や遺伝子型についてはほとんど分かっていなかった。本日紹介する論文はメキシコの大学によって発表されたAntioxidant Balance and Regulation in Tomato Genotypes of Different Color.(異なる色を示す遺伝子型を持つトマトにおける抗酸化力のバランスと制御)である。

 

本チームは抗酸化機能で知られるカロテノイド、ポリフェノール、トコフェノールなどの含量をそれぞれのトマトに対して測定をし、同時に抗酸化力についても測定している。その後、各種遺伝子発現量などを確認している。

 

結果はもちろん、それぞれの色に寄与する抗酸化物質が多く、その化合物を合成するために生合成経路の発現量も増大していることを確認している。特定の化合物が合成されるのと同時に他の抗酸化物質を合成するための遺伝子発現量はていかしており、カルテノイド、トコフェノール、クロロフィル間で総合成量を調整していると述べている。

 

こういった表現型と遺伝子型、さらにはそのブラックボックスを明らかにすることは、人為的に目的の表現型を示す作物を育種しやすくしたり、高栄養価の作物を作成することに繋がっていく重要な研究である。

 

 

Journal Reference

  1. Cristián Vela-Hinojosa, Héctor B. Escalona-Buendía, José A. Mendoza-Espinoza, Juan M. Villa-Hernández, Ricardo Lobato-Ortíz, Juan E. Rodríguez-Pérez, Laura J. Pérez-Flores. Antioxidant Balance and Regulation in Tomato Genotypes of Different Color. Journal of the American Society for Horticultural Science, 2019; 144 (1): 45 DOI: 10.21273/JASHS04525-18